鉄とともに


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”防護する”

 「鉄茶室 徹亭」を制作した後、私は「鉄で鉄ではないものをつくる」事に興味を失いつつあった。茶室以上のモチーフ がなかなか見つからなかったのも理由の一つであるが、茶室制作に於いて体感した、鉄による超閉塞空間に興味が移行したか らなのだった。堅牢な完全遮光物質に依ってもたらされる空間にただならぬ魅力を感じたのである。茶室に於いて、鉄の建具 を作ったのも良い経験だったのだろう。音をたてて「鉄が動く」事がこんなにもおもしろいとは。

 その経験から新たに "Painting Shelter"というシリーズを着想した。任意の絵画を漆黒の胎内空間に取り込み、堅牢強固な鉄で視覚的に過剰防護する事 によって、逆説的に絵画や平面イメージの脆弱性を浮き彫りにする。芸術の王道として君臨する絵画という形式に対しての不信感や過剰な付加価値への嫌悪感、ヴァーチャルな世界に依存することへの異議や恐怖等を想起させる。

 また、震災や原発の問題からも影響を受けており、各々がこの先に何をどのように守っていくのか、を考えるきっかけに繋がればとの思いも込めている。実際に、ニューヨークのフェアに持っていってもらった際に、天災から作品を護るNPOを主催しているという美大教授の方からポジティブなリアクションをいただいた。彼等は竜巻による被害にどう備えるか、を真摯に考えているようで、この作品がすぐにフィットしたそうである。私としては風刺的な意味の方が強かったのでとても驚き、興味深くこの作品の可能性 を実感したのだった。

ペインティングシェルター 加藤智大 Tomohiro Kato
"Painting Shelter #1"

”幽閉、鉄格子”

  "Painting Shelter”と同系列の作品として、"Painting Prison”という作品も制作した。檻のような牢獄のようなこの作品は、2013 年の Art Fair Tokyoにて初発表した際には、ギャラリーのコレクションからお借りした本物の杉本博司氏、 草間弥生氏の作品を中に閉じ込める事となった。

 "Painting Prison”は、"Painting Shelter"に比べてより強い意味を込めている。それは絵画へのコンプレックスをこじらせた挙句の一つの到達点であろうか。「過剰な付加価値への嫌悪」や「鉄格子という物質を介してで しか観る事が出来ない優越感」であったり「結局護ってしまっている事への自嘲」であったり。中に絵が入っている事を除いても、私にとってこのモチーフには思い入れがある。芸術表現を、自身の金属加工技術を基礎としている為に「鉄」から逃れる事の出来ないという比喩や、同姓同名の殺人者の事...。鑑賞者にとっても様々な想像を喚起させる事が出来るのではないか。「滑稽な防犯対策」と思う方もおられるだろう。

 何に せよ、「鉄」という物質の隔たりを介して文字通り「物」「事」を観るのを強いる事が最大の目的となっている。余談であるが、フランシス・ベーコンが自身の作品を額装する際にガラスを入れる事を望んだという。ガラスで隔てる事によって自身の絵画に対しての冷徹で批評的な態度がうかがい知る事ができる。

 また、本来檻や牢獄というものは逃げ出る可能性のあるもの、即ち生命を有しているものに対して拘束する為にある。閉じ込めるものにも依るが、鉄格子越しに見たものは生命感はより強調される訳である。

ペインティングプリズン 加藤智大 Tomohiro Kato
"Painting Prison #1" (&Hiroshi Sugimoto's work)
ペインティングプリズン 加藤智大 Tomohiro Kato
"Painting Prison #2" (&Yayoi Kusama)

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